東北大学 消化器内科

研究内容

For Medical Personnel

医療関係者の方へ

研究内容

上部消化管グループ

1. 食道胃接合部の炎症性発癌に関する基礎的研究

食道・胃接合部の炎症性発癌に関する基礎的研究では、①接合部で発生した一酸化窒素(NO)や接合部粘膜に曝露する胃酸・胆汁酸などによる酸化ストレスの発癌機序への影響・②接合部局所の粘液および粘膜細菌叢の発癌機序への影響・③他臓器との連関の発癌機序への影響などに関してモデルマウスを中心に研究を進めています。

2.「未来の上部消化管診療を現実に」に向けた臨床研究・多機関共同研究・機器開発

上部消化管疾患を中心に、全国規模および東北地方を基盤とする多施設共同研究を多く主導しています。本邦および世界のガイドライン策定に繋がる高品質なエビデンスを創出し、臨床に役立つ様々な予測モデルや意思決定支援ツールを開発・検証しています。さらに、高齢患者に配慮した医療の最適化とAI技術の臨床応用に取り組んでいます。また、産学連携を通じた医療機器の開発および上部消化管内視鏡治療手技の開発を行っています。

3. GERDや酸関連疾患・食道運動機能に関する研究

胃食道逆流症(Gastroesophageal Reflux Disease: GERD)などの酸関連疾患、さらにBarrett食道やBarrett癌に関する臨床研究を行っています。これらの疾患は、胸やけや嚥下障害といった生活の質(QOL)に直結する症状から、食道腺癌発生リスクにまで関わる重要な病態です。24時間pHインピーダンス・モニタリング検査や食道運動機能検査を用い、胃酸の逆流や食道の動きを詳細に評価しています。さらに、胃酸分泌能の解析や病理組織学的な検討を組み合わせ、病態を多角的に理解することを目指しています。これらの取り組みにより、GERDやBarrett食道の診断精度の向上や新しい治療法の開発、患者さん一人ひとりの症状やリスクに応じた個別化医療を実現することを目標としています。

4. 侵襲的内視鏡治療に対するシミュレータの開発と検証

緊急内視鏡として実施される消化管止血術や、早期消化管癌の内視鏡的治療、また膵臓グループと連携して胆膵内視鏡治療に関する高い再現性を持つ独自のシミュレータを産学連携として開発しています。これまでに潰瘍止血モデル(クリップ、止血鉗子)、十二指腸モデル(乳頭切開、胆管結石除去)を開発~市販につなげている。開発と並行して学習効果を評価する教育研究を進めています。

5. 老化および免疫応答にともなう胃発癌に関する基礎的研究

胃を含めた種々の臓器において、加齢に伴い癌の罹患率が上昇することが報告されており、老化にともなう胃発癌の分子生物学的な機序の解明を目指して、培養細胞、マウスモデル、オルガノイド培養系などを用いて研究を進めています。加えて、胃発癌過程において、免疫関連分子が前癌病変である腸上皮化生や胃粘膜萎縮の進展を制御する機序に関して、感染マウス実験などにより解明を試みています。

下部消化管グループ

1. 炎症性腸疾患の遺伝学的・オミクス研究

炎症性腸疾患(IBD)は遺伝的要因と環境要因が関わる多因子疾患であり、その疾患感受性遺伝子は民族により異なると考えられております 。当科ではゲノムワイド関連解析(GWAS)などの遺伝統計学的手法を用いて、日本人IBDの発症や病態に関わる遺伝子を同定してまいりました 。現在はさらに、メタボローム解析などを組み合わせた多層オミクス解析により、病態解明や新たな治療標的の探索を進めております 。また、NUDT15遺伝子多型に基づいたチオプリン製剤の個別化医療や 、薬剤アレルギーの遺伝的背景 、生物学的製剤の治療効果予測因子の解明など 、日々の臨床に直結するファーマコゲノミクス研究も精力的に推進しております。

2. 炎症性腸疾患の病態解明と新規診断・治療法開発

IBDの根源的な病態解明を目指し、分子生物学的なアプローチを用いた基礎・トランスレーショナル研究を展開しております。特に、患者さん由来の組織から作製するオルガノイド培養技術を駆使し、IBDや大腸腫瘍の発生・進展メカニズムの解明に取り組んでいます 。このオルガノイドを活用して細胞間コミュニケーションの機序を解明するとともに、疾患に特異的なバイオマーカー探索を通じて、新たなリキッドバイオプシーなどの診断法開発を目指しております 。さらに、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)と宿主免疫の相互作用、特に免疫グロブリンに被覆された細菌の役割解明にも挑戦しています 。

3. 炎症性腸疾患の臨床研究とエビデンス創出

当科での豊富なIBDの治療経験に加え、全国規模の医療ビッグデータを活用したリアルワールド研究は我々の大きな強みです 。生物学的製剤や新規治療薬の長期予後や安全性、治療法選択の最適化といった日常臨床における重要な課題に加え 、妊娠・出産といったライフステージにおける薬剤使用の安全性や 、睡眠障害が疾患活動性に与える影響など 、患者さんの生活の質(QOL)に深く関わるテーマについても、前向き研究やデータベース研究を通じて解明に取り組んでいます。また、新規治療法の科学的有効性を証明するため、無作為化比較試験(RCT)も積極的に計画・実行し 、世界に先駆けて治療戦略の提示を目指しています。

4. 低侵襲な内視鏡診断・治療法の開発と実践

患者さんのQOL向上に直結する、より低侵襲な内視鏡診断・治療法の開発は我々の重要な使命です。特に、クローン病などの良性疾患による消化管狭窄に対しては、本邦ではまだ研究段階にある内視鏡的Radial Incision and Cutting (RIC)という新規治療法に着目しております 。その安全性と有効性を検証するための多施設共同パイロット試験を我々が主導し 、世界に先駆けてそのエビデンスを構築することを目指しています。また、従来の内視鏡的バルーン拡張術(EBD)や 閉塞性大腸がんに対するステント治療についても 、全国規模のデータベースを用いてその有効性や安全性を大規模に解析し、より適切な治療法の確立に貢献しております。治療のみならず、腫瘍周囲にみられる「白点」が癌に関連する所見であることを世界に先駆けて報告するなど 、新たな内視鏡診断法の開発にも力を入れています。

膵臓グループ

1. 膵炎関連遺伝子の解析

慢性膵炎は進行に伴って膵実質の脱落と線維化をきたし、最終的には内外分泌機能の低下によってQOLが著しく損なわれる疾患です。発症にはトリプシノーゲンをはじめとする膵消化酵素関連遺伝子の変異が関与することが明らかになっています。
当グループでは次世代シークエンサーなどの先端技術を用い、膵炎関連遺伝子の網羅的解析を行うプラットフォームを構築しています。さらに海外共同研究施設と連携し、新規遺伝子変異の同定や機能解析を進めています。若年発症例や家族性膵炎症例など、遺伝的素因が疑われる症例の解析依頼にも積極的に対応しています。遺伝性膵炎の遺伝子解析を希望される場合は、下記までご連絡ください。
(連絡先:gastro_hisyo@g-mail.tohoku-university.jp

2. 膵癌・膵炎の病態解明と新規治療法開発に向けた基礎研究

膵癌は診断・治療技術の進歩にもかかわらず依然として予後不良で、消化器疾患領域における大きな課題です。その進展には間質細胞と癌細胞の相互作用が重要であり、特に膵星細胞は線維化形成や癌細胞の浸潤能・幹細胞性の獲得に関与します。
当グループでは、膵癌細胞と膵星細胞の相互作用を解明するとともに、新規治療標的の探索に向けた研究を行っています。二次元培養系や膵癌モデルマウスを用いた解析を組み合わせることで、多面的な病態解明に取り組んでいます。
また、膵炎発症に関連する遺伝子異常が次々と報告されている一方で、その発症機序や膵癌との関連性は十分に解明されていません。当グループでは遺伝子改変マウスを導入し膵炎の発症機序を解析するとともに、膵癌モデルマウスと交配させることで膵炎と膵癌の関係を検討しています。

3. 膵疾患の新規バイオマーカー探索

膵癌や膵炎では、早期診断・早期介入による予後改善が期待されており、信頼性の高い新たなバイオマーカーの探索が求められています。
当グループでは血液・膵液・便などの臨床検体を用い、多角的に新規バイオマーカー候補を探索しています。さらに、それらと疾患病期との関連性を検討することで、将来的な臨床応用につながる知見の確立を目指しています。

4. 画像診断と人工知能(AI)活用に関する臨床研究

膵癌の診断・早期発見、さらには膵疾患患者の全身評価において、画像診断は不可欠です。近年、早期膵癌の画像的特徴が明らかになりつつあるほか、膵疾患と筋肉量・脂肪量・骨密度といった全身状態の関連性も注目されています。
当グループでは、早期膵癌の画像的特徴や、膵疾患と全身状態の関連を画像所見から解析するとともに、将来的な人工知能(AI)の臨床応用を見据えた研究を行っています。

5. 全国規模のビッグデータを用いた臨床研究

疾患の実態や治療トレンドを把握する上で、全国規模のビッグデータ解析は有用です。当グループではDPCデータを活用し、急性膵炎やERCP後膵炎の発症や治療内容の経時的変化を明らかにしています。また、膵炎全国調査や多施設共同研究にも参画し、急性膵炎、慢性膵炎、早期慢性膵炎、自己免疫性膵炎に関する臨床像・治療変遷・病期進展因子などについて検討を行っています。

肝臓グループ

1. 肝炎ウイルスのライフサイクルの解明と治療への応用

C型肝炎は治療薬の進歩によりほぼ確実にウイルスを排除出来る時代となりましたが、B型肝炎については高率にウイルスを排除できる治療法がまだありません。主に培養細胞を使って、B型肝炎ウイルスの肝細胞への侵入から放出までのライフサイクルで利用される細胞側のメカニズムを明らかにし、新しい治療法の開発に役立てるための研究を行っています。特に細胞内でのウイルスの組み立てや自然免疫に着目して、ウイルスの増殖を阻害できる方法を探索しています。

2. 肝炎ウイルスの遺伝子変異や遺伝子型の病態への影響

肝炎ウイルスの遺伝子には多様性があり、我々はその変化によってB型肝炎の病態(急性肝炎における劇症化、慢性肝炎における核酸アナログの治療効果など)に違いがあることをこれまで報告してきました。その多様性について、次世代シークエンサーなどを用いてより詳しく解析を行っています。また、培養細胞に変異のあるウイルスの遺伝子を導入し、ウイルス増殖や細胞機能への影響、発癌との関係を検討しています。

3. 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の病態解明

近年増加している代謝機能障害関連脂肪性肝疾患に対しては食事・運動療法の他にはまだ確立した治療法がありません。肝障害や肝線維化が進展するメカニズムを明らかにするため、培養細胞・マウスモデル・臨床検体を使い、免疫応答やERストレスの変化などに着目して研究を行っています。また、肝硬変でアミノ酸バランスの不均衡が生じることが知られており、これが樹状細胞などの免疫機能に影響することを明らかにしてきましたが、代謝機能障害関連脂肪性肝疾患でも線維化の進行によりアミノ酸バランスに変化が生じる可能性があり、診断や治療に応用するために検討を行っています。

4. 肝細胞癌における免疫の働き

最近の免疫チェックポイント阻害剤の開発により癌に対する免疫応答の重要性はより高まっています。我々は肝細胞癌患者においてPD-L1陽性の骨髄由来免疫抑制細胞が増加していることを明らかにしてきました。腫瘍内・外の免疫応答が治療効果や予後とどのように関係するかを明らかにし、適切な治療法の選択への応用に結びつけることができるように研究を行っています。

5. 肝疾患に関する臨床研究及び多施設共同研究

宮城県内を中心とした多くの関連病院のご協力により、B型肝炎・C型肝炎における治療効果や発癌例のデータを集積して検討を行っています。東北地方ではgenotype BのB型肝炎ウイルス感染者の割合が多いため、その特徴も解析しています。また、肝細胞癌の様々な治療による予後延長効果について、我々の報告した予後予測式を用いて検討し、病状に応じた適切な治療法選択の確立に役立つ画像評価AIツールの開発も目指しています。代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の運動療法を中心とした治療法についての臨床研究も行っています。