研究内容

上部消化管グループ

上部治療

1. 胃酸分泌及びHelicobacter pyloriに関する研究

上部消化管グループでは、胃酸分泌やHelicobacter pylori (H.pylori)感染の観点から、胃癌、胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、Barrett食道、食道癌の病態解明を臨床および基礎の両面で進めている。

上部消化管疾患における胃酸分泌能に関する臨床的研究では、従来から24時間pHモニタリング検査、さらに当教室で開発した内視鏡的刺激胃酸分泌能検査(EGT)などを用い、H.pylori感染に伴う胃粘膜萎縮を背景とした胃癌や胃潰瘍の病態を、酸分泌動態の観点から解明してきた。さらにH.pylori感染率の減少に伴い増加が予想されるGERD、Barrett食道、Barrett癌について、酸分泌能や病理組織学的立場で病態解明を進めている。また、GERDに関連して、新たにワイヤレス24時間pHモニタリングやPET(脳血流イメージング)を用いて、病態解明や新しい検査法の開発を試みている。

2. 食道・胃接合部の粘膜障害に関する基礎的研究

食道・胃接合部における一酸化窒素(NO)による粘膜傷害に関する基礎的研究では、胃酸による酸性下では、食道・胃接合部内腔においてNOが局所的に高濃度で発生していることを見出している。これに基づき、このNOが、どのように粘膜傷害を起こし、食道・胃接合部癌や逆流性食道炎などの成因に関与しているかin vivoを中心に研究を進めている。

3. 上部消化管疾患に関する遺伝子研究

H.pylori感染に対する免疫応答や胃酸暴露による腸上皮化生やBarrett食道の形成に関する分子生物学的研究では、Interleukin-8遺伝子多型が、胃粘膜萎縮やそれを背景とした胃癌・胃潰瘍発症に影響を与えていることを見出している。このため、他の遺伝子多型と各上部消化管疾患との関連について研究を進めている。また、腸上皮化生やBarrett食道の形成に関与する分化制御遺伝子の同定とそのシグナル伝達機構をin vitroで検討している。

下部消化管グループ

大腸教育

1. 炎症性腸疾患の遺伝学的研究

炎症性腸疾患は遺伝的要因と環境的要因が関わる多因子疾患であり、その疾患感受性遺伝子は民族により多少異なると考えられております。当科では遺伝統計学的手法を用いて、日本人炎症性腸疾患の発症や増悪、表現型に関わる遺伝子を同定し、より有効な治療法を開発すべく研究を展開しております。今までTNF、CD14、NRAMP1、HLA、TNFSF15など多くの遺伝子多型を解析し、炎症性腸疾患との有意な相関を報告して来ました。

現在はさらに詳細なassociation mappingやアレイ、発現解析、機能解析による研究も進めております。また、最近は遺伝子多型と生物学的製剤に対する治療効果との相関性や、CRP値との相関性など、遺伝子多型の臨床経過への関わりを解明する研究も進めております。

2. 炎症性腸疾患とオートファジー

オートファジーは飢餓、感染、ストレス、老化等に対応する細胞内防御機構で、細胞内構成成分を分解・再利用いたします。近年、オートファジー関連遺伝子がクローン病発症に関わることが明らかになり、そのメカニズムの解明が求められています。当科では培養細胞を用いて、オートファジーと腸疾患との関わりを研究しています。

3. 炎症性腸疾患の治療に関する無作為割付試験

現在の治療学では、治療方法の科学的な有効性の証明には無作為割付試験(RCT)が必須です。当科は炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)の症例数が多く、生物学的製剤や栄養療法、免疫調節剤などを組み合わせた各種治療方法についてRCTでその有効性を証明し、世界に先駆けて提示することを目標としています。

4. 炎症性腸疾患の臨床経過の解析

当科での豊富な潰瘍性大腸炎、クローン病の治療経験をもとに、両疾患の治療成績や長期経過を多方面から解析する研究も行っています。炎症性腸疾患の長期予後に影響を与える因子の解明や、生物学的製剤や新規の免疫調節剤などの治療成績、妊娠出産への影響、クローン病の狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術の治療成績などの解析を行い、解析結果を継続して発信しています。

膵臓グループ

膵臓研究

1. 膵炎関連遺伝子の解析

 慢性膵炎は進行性に膵実質の脱落と線維化を来たすことで内外分泌機能が失われ、QOLが大きく損なわれる疾患です。慢性膵炎の発症にはトリプシノーゲンをはじめとした膵消化酵素とその関連遺伝子の変異が関わっていることが明らかにされております。当グループでは次世代シークエンサーなどの新技術を用いて膵炎関連遺伝子の解析を網羅的に行うためのプラットフォームを構築しており、海外の共同研究施設とともに新たな遺伝子変異の同定・機能解析を進めています。遺伝的素因の関与が疑われる若年発症の膵炎症例や、家族性膵炎家系における遺伝子変異検索の解析依頼にも積極的に対応しております。遺伝性膵炎症例の遺伝子解析を希望される場合には、当科までご連絡いただけますと幸いに存じます。(連絡先:hisyo@gastroente.med.tohoku.ac.jp)

2. 膵癌進展に関わる細胞間相互作用の解明・膵線維化形成機序に関する検討

 膵癌は診断・治療技術の進歩にもかかわらずいまだに高い死亡率を有する難治癌であり、消化器診療における大きな問題であり続けています。膵癌の進展には間質細胞と癌細胞の相互作用が重要な役割を果たしており、特に膵の線維化形成に寄与する膵星細胞は癌細胞の浸潤能の増加や幹細胞性の獲得に貢献しています。当グループではビタミンD誘導体に代表される抗線維化療法の有効性について報告を行ってきました。また、新たな治療標的同定のためにこのような細胞間相互作用に関わる細胞内シグナルや、膵癌の悪性化にかかわる新たなメディエーターの探索を行っています。

3. 早期慢性膵炎の臨床経過に関わる検討

 2009年に改定された慢性膵炎診断基準により、早期慢性膵炎という概念が新たに加わりました。早期慢性膵炎と診断される症例がどの位の割合で慢性膵炎確診例に移行するのか、慢性膵炎への進行を規定する臨床的因子はどのようなものなのかについては明らかになっておりません。現在、早期慢性膵炎および慢性膵炎疑診例の前向き予後調査が多施設共同観察研究として行われておりますが、当施設も研究分担施設として参加し、症例登録と予後調査を実施しています。

4. モデルマウスを用いた膵癌進展過程の解析

ヒトにおける膵癌ではK-rasやp53遺伝子に高い頻度で変異が認められ、発癌に大きく寄与していることが報告されています。膵特異的に変異K-rasおよび変異p53を発現させた遺伝子改変マウスは生後3ヶ月ごろから膵癌を発症し、ヒト膵癌に類似した経過をたどるモデルマウス(KPCマウス)として広く研究に用いられています。当グループではKPCマウスを導入し、膵発癌過程に関わる様々な因子や、コンディショナルノックアウト遺伝子の追加による表現型への影響について検討を行っています。

肝臓グループ

肝臓検査

1. 肝炎ウイルスのライフサイクルの解明と治療への応用

最近になりC型肝炎治療薬の大きな進歩がありましたが、B型肝炎については高率にウイルスを排除できる治療法がまだありません。主に培養細胞を使って、B型肝炎ウイルスの肝細胞への侵入から放出までのライフサイクルで利用される細胞側のメカニズムを明らかにし、新しい治療法の開発に役立てるための研究を行っています。特に、細胞の持つ膜輸送(小胞輸送)機構に着目して、ウイルス粒子やその構成成分がどのように細胞内で運搬されるかを検討し、これを阻害できる方法を探索しています。

2. 肝炎ウイルスの遺伝子変異や遺伝子型の病態への影響

肝炎ウイルスの遺伝子には多様性があり、我々はその変化によってB型肝炎の病態(急性肝炎における劇症化、慢性肝炎における核酸アナログの治療効果など)に違いがあることをこれまで報告してきました。その多様性について、次世代シークエンサーなどを用いてより詳しく解析を行っています。また、培養細胞に変異のあるウイルスの遺伝子を導入し、ウイルス増殖や細胞機能への影響を検討しています。さらに、遺伝子変異だけでなく変異を伴わないエピジェネティックな修飾の影響についても解析しています。

3. 非アルコール性脂肪性肝炎の病態解明

近年増加している非アルコール性脂肪性肝炎に対しては食事・運動療法の他にはまだ有効な治療法がありません。脂肪性肝炎が進展するメカニズムを明らかにするため、培養細胞・マウスモデル・臨床検体を使い、免疫応答やERストレスの変化などに着目して研究を行っています。また、肝硬変でアミノ酸バランスの不均衡が生じることが知られており、これが樹状細胞などの免疫機能に影響することを明らかにしてきましたが、非アルコール性脂肪肝でも線維化の進行によりアミノ酸バランスに変化が生じる可能性があり、診断や治療に応用するために検討を行っています。

4. 肝細胞癌の進行におけるnon-coding RNAやエクソソームの働き

近年、細胞機能を調節する因子としてmicroRNAやlong non-coding RNAなどのアミノ酸をコードしないRNAが知られるようになりました。その肝細胞癌での働きについて培養細胞や臨床検体を使って解析し、肝細胞癌の診断や治療などの臨床応用に向けた研究を行っています。また、細胞が放出するエクソソームなどの細胞外小胞にはmicroRNAが含まれており、細胞間の情報伝達を担っていることを明らかにしてきましたが、この機構が肝細胞癌の進行や抑制に関わるメカニズムについても研究を行っています。

5. 肝細胞癌における免疫の働き

最近の免疫チェックポイント阻害剤の開発により癌に対する免疫応答の重要性はより高まっています。我々は肝細胞癌患者においてPD-L1陽性の骨髄由来免疫抑制細胞が増加していることを明らかにしてきました。さらに肝細胞癌患者での免疫応答の変化がどのようにもたらされるかを明らかにし、その変化を肝細胞癌の診断や適切な治療法の選択への応用に結びつけることができるように研究を行っています。

6. 肝疾患に関する多施設共同研究

宮城県内を中心とした多くの関連病院のご協力により、B型肝炎・C型肝炎における治療効果や発癌例のデータについて集積して検討を行っています。東北地方ではgenotype BのB型肝炎ウイルス感染者の割合が多いため、その特徴を明らかにしたいと考えています。

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